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「Sexy Sadie 」The Beatles〜神経症的なジョン進行(3)〜 [音楽の聴き方]

いよいよ本題。

■ジョン進行
この曲の魅力は、やはり独特の半音下降進行、「ジョン進行」にあるでしょう。
ジョン進行というのはまぁ、僕が勝手に呼んでるだけなんですけど。
具体的に言うとAメロ頭のG−F#の部分。

このG−F#がときにはG−F#−Fとなったり、A−G#−G−F#となったりしながら、
(神経症的に)何度もリフレインされるのがこの「Sexy Sadie」という曲。

■曲の流れにそって具体的に見ていくと、

イントロ
|C D7 |G F# |F D7 |

印象的なピアノから始まる部分。すでに半音下降が登場。
(ここではG−F#−Fまで下降)

Aメロ
|G F# |Bm  |C D7 |G F# |C D7 |G F# |F D7 |

Aメロの頭“Sexy Sadie”という歌いだしのところ(G−F# )で、いきなり半音下降。
まるで玄関空けたらいきなり地下への階段があった、みたいな感じですかね。
おい、なんだこの家は!という。意表を突かれるわけです。
しかも歌いづらいんです(僕だけ?)…

通常はあまり行かないんですよ。どアタマでGからF#には。
特に自然な流れを意識した場合にはね。
Gの次に来るのは大体Am、Bm、C、D、Emあたりと相場が決まっている。
あるいはG-Gmaj7-G7-G6のようなクリシェとか、
せいぜいF#mくらい(「Yesterday」など)。

おそらくギターで作曲したんじゃないかと思うんだけど、
ポジションをひとつずらしただけって!
灯台もと暗しじゃないけど、よく見つけたな、と。
この辺の発想がまさにジョン・レノン的。
ただ決して生易しい進行ではないんですよね。
非常に強引感が強いので、それなりに覚悟のいる選択なわけです。

そして次の“what have you done”の部分(Bm)が非常に切ない。
階段を降りた先のドアを開けたら、心を病んだ親友の姿を発見したような、
胸の張り裂け感がある。
このG−F#−Bmの流れはたまりませんね。

次のC−D7で親友は少し明るさを取り戻すんですが、
すぐにG−F#の下降が現れ、鬱状態に。
再び立ち直りかけたと思ったら(C−D7)、
すかさず沈んでゆく(今度はG−F#−Fまで)といった具合。
あくまで僕の勝手なイメージですが。

サビ
|G Am |Bm C |G Am |Bm C |
|A G# |(G F#)

躁鬱的なAメロがくり返されたあと、
サビでは一転して、美しいメロディでハッピイな気分にさせてくれる。
あたかも窓を開けると一面花畑で、そこにフワフワと浮かんでいる、
といったようなイメージでしょうか。

ここはG−Am−Bm−Cという牧歌的な美しいコード進行で、
ジョンが「名曲」と絶賛するポ−ルの曲
「Here, There And Everywhere」のAメロ部分と同じコ−ド進行が使われています。

このAメロとサビの対比は見事ですね。
あくまでポップミュ−ジックとして仕上げるバランス感覚はさすがビートルズ。

しかし、2回のくり返しの後で今度は抗鬱剤が徐々に切れるように
A−G#−G−F#と半音づつ下降していき、沈んだ世界へと否応なく引き戻されます。
半音づつ1音半下まで下がっていくところは圧巻です。

■ 切れ目のない構成
サビの最後に現れる、A−G#−G−F#の半音下降の後半部分(G−F#)から
実はAメロに戻るわけですが、流れから行くとあくまでサビの一部のように感じる。

その前のG−Am−Bm−Cの繰り返しは安定したコード進行で小節数も4と安定している。
次のAm−G#−G−F#でひとくくりとすると、2小節で収まりもいいし、
半音進行で一連の流れがあり、次のBmへ向けて何となく解決感もあるのだけど、
そうすると2番のAメロが中途半端なところから始まってしまうことになるので、
おかしなことになる。

歌詞も1番のアタマと呼応させると、
やはり“Sexy Sadie”から始まるGからがAメロということになるのだろう。

しかしそうすると、安定したG−Am−Bm−Cのあとに、わざわざ半端な1小節を付け足して、
しかも流れが続いている中で、Aメロに戻ることになる。この戻り方は尋常じゃない。

一応の解決を見るはずのサビの終りが、
なし崩し的にいつのまにかAメロの頭にすり変わってるという。
つまりこの曲には間奏がないどころか、終わりすらないことになる。
この事実に気付いたとき、冗談ではなく本当に背筋のぞっとするような、そら恐ろしさを感じました。

ようやく出口に辿り着いたと思ったら、いつの間にか入り口に舞い戻っていたような、不思議な感覚。そう考えると、ピアノのおどけたような旋律や奇妙なコーラス(この曲のもう一つの魅力はその巧みなコーラスワークにあり!)もどこか無気味な雰囲気を醸し出していて恐い。

■この部分に限らず、この曲には明確な切れ目がないんですね。
各部の小節数を見ると以下のように半端であることがわかる。

イントロ 3小節
Aメロ   7小節×2
サビ   9小節
     =4×2+1

これは安定感のある偶数を避け、緊張感を持たせると同時に、
区切りを曖昧にしてるわけです。
この辺はほとんど感覚的にやってるんじゃないかという気もするけど、
いずれにしても、あざとさがない。自然なんです。

小節や拍に対する柔軟な解釈は以前からあったわけだけど(とりわけジョンに)、
特にこのアルバムでは顕著である。

このように区切りは巧妙に曖昧化され、曲は解決することなく、
延々ぐるぐると「輪廻転生」のごとく回り続ける。

さて「輪廻転生」といえば、仏教やヒンズー教の思想ですが、
当時インドへ瞑想旅行に出かけたビートルズ。
ジョンは、世俗的なグル(ヒンドゥー教の導師)、マハリシに幻滅し、皮肉を込めて歌にした。
当初「マハリシ」と名付けられる予定だったその曲こそ、
この「Sexy Sadie」というわけです。


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