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クリスマス、カブトムシ、不安定な音 [音楽の聴き方]


桜の木の下(SACDハイブリット盤)








<曲名>「カブトムシ」
<作曲> aiko
<収録アルバム>「桜の木の下」(2000)
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クリスマスの夜、ベッドで独りラジオを聞きながらふと、泣きたい衝動にかられた。傍らに誰もいないことへの寂しさゆえか、ラジオから流れてくるピアノの音があまりに切なかったせいか、あるいはその夜のちょっとした偶然に感動を覚えたからかなのか、あるいは、それらすべてによってか・・・

話は数カ月前に遡る。有線では邦楽のヒットチャートが流れていた。僕にとって特に重要な意味を持たない音楽タチが耳を素通りしていく中で、ふと耳に止まる女性ボーカルの曲があった。曲のある箇所で何かむず痒さといったものを感じたのである。ピッチのズレ?最初はそう思った。声や溌溂とした歌いっぷりから、まだ若い感じだったし、そういう元気さみたいなものがこの子の売りであって、きっと細かいピッチのズレなどは大した問題じゃないのだろう、と勝手に解釈した。

別に自分に絶対音感があるわけではないのだが、何となくそう思ったのだ。同じメロディーの部分にさしかかると、やっぱりむず痒い。でも2度3度くり返すうち、だんだんその部分が快感に変わってくるのが分かった。誰だろう?ツレに聞いてみると「アイコ」というアーチストの「花火」という曲だと教えてくれる。

暫くして・・・そんなやりとりがあったことなど全く忘れていたある日。有線では相変わらず邦楽のヒットチャート。そこでまた不意にある曲が耳を捕らえた。女性ボーカルのバラード。曲が始まって暫くは全く関心がなかったのだが、サビのクライマックスにさしかかったところで、何かが僕の耳に引っ掛かった。アレ、いまなんかピッチが・・・微妙な気持ち悪さ・・・そして注意深く耳を傾ける・・・ほらやっぱり。・・・とここまでくれば普通気付いてもよさそうなもんだが、ほんとに以前のやり取りは忘れていたのである。

誰だろう?気になったのでまたツレに聞いてみると、「アイコ」の「カブトムシ」という答え。"アイコ"・・・ん?どっかで聞いたような・・・そのとき初めて以前のやり取りを思い出した。そう、流行りの邦楽に疎い僕の耳に止まった2つの曲が、偶然にも同じアーチストの曲だったのだ。そういえば前のときも、ある部分でのピッチの不安定さ(と自分が勝手に解釈したもの)が僕の耳を捕らえたのだった。

これはどういうことだ、わざとか、わざと注意を惹くために、やっているのか、それとも計算された演出か。そんな疑問がフツフツと湧いてきた。しかしこのときはこの微妙な気持ち悪さが快感に変わるのに時間はかからなかった。ズレてるにしろ、ないにしろその音自体がクールだと思った。またそこへいくメロディの流れが気に入った。

ともすれば、よくあるバラードで終わってしまいそうな曲なのだが、サビのクライマックスでその不安定な音をもってくることで、予定調和のエンディングへの流れがよりドラマティックに演出されている。不安定な音が一瞬入ることで、緊張感が生まれ、安定した結末への欲求が大きくなり、その結果、得られる感動はより増長されるというわけだ。

こうして一度曲を好きになると、それまで蔑ろにしていた他の部分も、非常に味わい深く魅力的なものに思えてくるから不思議である。いうなれば、"たったひとつの音"が僕を夢中にさせてしまったのだ。そしてこんなことは今までなかった。



 
クリスマスの夜、何気なしにラジオをつける。ラジオなんて滅多に聞かないのに、である。女性の声、ピアノの弾き語りで「きよしこの夜」が歌われていた。いくぶん緊張が感じられるものの、ジャジイな歌いっぷりはなかなかのものだった。いいなぁ、誰だろう?そして、それが例の"アイコ"であると知ったとき、これまでのやり取りを思い出して、ちょっとした偶然になぜだか知らないが涙がこみ上げてきた。そのとき抱いた疑問やなんかが急に、答えが見つかったというか、なにかもやもやがスッキリしたような気分だった。

してみると彼女には、ジャズの素養があり、「カブトムシ」「花火」で僕が感じた不安定なトーンは、ジャズでいうブルーノートかなんかで説明できるのか?クォータートーンのまたまたクォーターとか(そんなものがあるのかどうか知らないが)。はたまた、もともと不安定なテンションノートなのか、それとも単なる癖か、意識してやっているのか、正確なところはわからない。

もはやそのまま眠りにつくことは不可能だった。僕は興奮覚めやらぬままベッドを抜け出し、レンタルショップへ走った。

 

★Today's Set
 1. 愛の病(aiko)
 2. 花火(〃)
 3. 桜の時(〃)
 4. 桃色(〃)
 5. Heaven's Kitchen(Bonnie Pink)
 6. MAN(KAN)
 7. Tuesday Heartbreak(Stevie Wonder)
 8. Hey Jude(The Beatles)
 9. カブトムシ(aiko)
10. きよしこの夜(〃)


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