「Addicted To That Rush」Mr.Big [音楽の聴き方]
<作曲> Billy Sheehan、Paul Gilbert、Pat Torpey
<収録アルバム>「Mr. Big」(1989)
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80年代後半〜90年代にかけて起こったHR/HMムーブメントの中で、一つの潮流となったのが、ルーツ回帰路線だ。ゲイリー・ムーアがブルースのカヴァー・アルバム「スティル・ガット・ザ・ブルース」を出したり、エアロスミス直系のガンズアンドローゼズを筆頭に、ジャニス・ジョプリンを思わすシンデレラ、フェイセズを彷佛とさせるクワイアー・ボーイズといった60〜70年代初期のブルースロック系のアーチストをルーツとするバンドたちがこぞって登場してきたのがこの時期である。(中にはツェッペリンのクローンとこき下ろされたキングダム・カムなんてのもいましたね…)
そんな中、既にキャリアのあるミュージシャンたちによる3つのバンドが、ほぼ同時期にデビューする。それがブルー・マーダー、バッドランズ、そしてMr. Bigである。ルーツ回帰という同じ文脈の中から登場してきたとはいえ、そのサウンドは三者三様であった。中でも一番ブルースロック的なルーツ回帰志向が強かったのがバッドランズ(個人的にはこの3つの中で一番好きでした…)であり、ブルーマーダーはもう少しメタルよりのヘヴィでドラマティックなサウンド、Mr. Bigはテクニカル集団によるキャッチーで洗練されたハードロックという印象だった。
当時からトッド・ラングレンが好きだと公言していたポール・ギルバートの影響か、その後サウンドはどんどん洗練され、ポップ色を強めていくことになるが、初期(ファースト〜セカンドあたり)の頃はそれこそフリーやバッド・カンパニー、ハンブル・バイのようなブルースロック色を強く感じさせる曲もあったりして(実際ボーナストラックとしてハンブル・パイの「30デイズ・イン・ザ・ホール」のカヴァーも)結構ハマってました。
ただそもそもHR/HMムーブメントのもう一つの大きな潮流であった“速弾きブーム”の中から出てきたビリー・シーンとポール・ギルバートのプレイにブルース・フィーリングは希薄であった。ブルース・フィーリングを唯一感じさせていたのは、エリック・マーティンのエモーショナルなボーカルである。
ポール・ギルバートやビリー・シーンに比べると、どうも過少評価されているような気がしてならないエリックだが、ポール・ロジャース直系のソウルフルな唱法で、本家に勝るとも劣らぬパフォーマンスを見せており、当時間違いなくトップシンガーの一人であったと言える。バンドがあれほどのポピュラリティを獲得でき、長続きできたのも、実はエリック・マーティンの声の魅力と歌のうまさによる所が大きいのではないだろうか。いくら曲や演奏が良くても、やはりボーカルが違っていたら、もっとマニアックなバンドとして短命で終わっていたような気もがしないでもない。
とはいえ、そんなエリックのブルース・フィーリングとポール・ギルバートの弾くメカニカルなフレーズとのアンバランスさが、逆に新鮮に感じられたのも事実である。中でも『Mr. Big』の1曲目「アディクテッド・トゥ・ザット・ラッシュ」を初めて聴いたときの衝撃は忘れられない。
猛烈なスピードと強烈なグルーブで、初めから終りまでノンストップで突っ走るスリリングなナンバーだ。ただ速いだけの曲はいくらでもあるが、これほど速くてかつグルーブのある曲は聴いたことがなかった。イントロの高速トリルからしてもうアドレナリンが吹き出してくる。まるでリード・ギターのようにベースを弾くビリー。ポールとユニゾンでプレーする速弾きソロは圧巻である。
だがそんな二人に負けず強烈な存在感を放つのが、エリックのボーカルだ。ポールとビリーが手のつけられない猛獣だとすれば、さながら二人を操る猛獣使いのような堂々たる貫禄を見せる。暴れたくてウズウズしている猛獣たちを、巧みな手綱裁きでコントロールしているかのようだ。
この曲の中で1番好きな部分は、ソロの後、ボーカルとギター、ベースが掛け合いを演じるところ。まるでライブのような緊張感がたまらない。そして怒濤のエンディングヘとなだれ込む展開に、最後は昇天間違いなし!終りに聞こえてくるちょっとしたフレーズが遊び心を感じさせてくれ、おシャレ。
★Today's Set
1. Addicted To That Rush(Mr. Big)
2. Take A Walk(〃)
3. Anything For You(〃)
4. Arive And Kickin'(〃)
5. Green Tinted Sixties Mind (〃)
6. Colorad Bulldog(〃)
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