『至上の愛』ジョン・コルトレ−ン 〜火の鳥の叫び〜 [音楽の聴き方]
<原題> 『A Love Supreme』John Coltrane(MVCJ-19032)
<発売> 1964
<曲目> 1. パ−ト1:承認
2. パ−ト2:決意
3. パ−ト3:追求/パ−ト4:賛美
-------------------------------------------------------------------------
2003年にロ-リング・スト-ン誌が選んだ
「最も偉大なアルバム・ベスト500」の中で、
この『至上の愛』は47位にランクインしている。
ロック系の作品に偏った選出の中で、
他にジャズのアルバムで100位以内に入っているのは、
12位のマイルス・デイヴィス『カインド・オブ・ブル−』と
94位の同じくマイルス『ビッチェズ・ブリュ−』のみだから、
このアルバムがいかにジャンルを超えて支持されているか分かるというもの。
ロック系ア−チストの中には、コルトレ−ンが好きだと言う人がけっこういる。
麻薬に溺れ、夭逝した天才の、破滅的な人生への憧れもあるだろうが、
マイルス同様、常に新しい音楽にチャレンジし続けた姿勢や、
その中でロックに通じる(あるいはそれ以上の)ソウルや衝動を
表現してきたことに共感する部分も多いのではないだろうか。
■史上最強のカルテット
このアルバムのコンボは、
サックス:ジョン・コルトレ−ン
ピアノ :マッコイ・タイナ−
ベ−ス :ジミ−・ギャリソン
ドラム :エルヴィン・ジョ−ンズ
という、俗に「黄金のカルテット」と呼ばれるラインナップで、
僕はレッド・ツェッペリンと並んで、
人類史上最強のカルテットではないかと勝手に思っている。
ここでの4人のアンサンブルはまさに神がかり的で、
そこには崇高な使命感のようなものすら感じられる。
各パ−トはバッキングに回ったときでさえ、
単なる“従”の位置に甘んじることはなく、
あくまでソロを照らしながら、なおかつ自らも光り輝くような、
印象的なプレイを聞かせてくれる。
盛り上がってくるところでは、
まるで4人が同時にソロを展開しているようでもあり、
それが一塊の巨大なうねりとなって、
ひとつの曲になっているというような印象を受ける。
ときに、好き勝手にプレイしているようにも聞こえるが、
足下はきちんと繋がっており、バラバラにならないギリギリのところで、
それぞれが表現の限界に挑んでいるかのようだ。
この緊張感といったらない!
この行き着く先が『アセンション』なのだろう。
ただ、あそこまで行くとアヴァンギャルドと言って嫌われてしまう。
僕はけっこう好きなんですが…
(って嫌われてないか)
■火の鳥の叫び
「火花散る」とよく言うが、
ここでの4人の個性の激しいぶつかり合いは、火花どころではなく、
激しく燃える炎、いや、爆発する火山を思わせる。
それが最も顕著なのが、T-3「PartIII: Pursuance(パ−ト3:追求)」だろう。
エルヴィンの叩き出すリズムは、まるでフツフツと煮えたぎるマグマのよう!
ジョン・ボ−ナム、ドン・ブリュワ−、ミッチ・ミッチェル、
ジンジャ−・ベイカ−…みな好きなドラマ−だが、
この曲でのエルヴィンのプレイが、あらゆるドラムプレイの中で最も好きだ。
そこに絡んでくるピアノとベ−スは、さながら溶岩のごとく、
すべてのものを有無を言わさず、圧倒しながら流れていく。
特にマッコイのピアノは、一見あまりに涼し気に聞こえるが、
赤い星に比べ、青い星の方が温度が高いのと同じように、
涼し気に見えて、実は極めて高温だというようなプレイ。
圧巻は、そんな灼熱の空間を引き裂いていくかのような、
コルトレ−ンのブロ−で、
まるで燃え盛る炎の中を、縦横無尽に飛び回る火の鳥を思わせる。
ボ−カルで言うシャウトのような、激しくエモ−ショナルなブロ−は、
火の鳥が何かを激しく訴えているようで、魂を揺さぶられる。
■
このアルバムは、曲のタイトルからも分かるように、
組曲形式のコンセプトアルバムになっている。
それはクラシック音楽を思わせるが、
実際クラシックの交響曲にも匹敵するような
品格と構成力を備えたアルバムだと思う。
ロックやクラシックにも通ずる要素を感じさせる『至上の愛』は
ジャズというカテゴリ−を超越した、普遍的な音楽であり、
もっと言えば、音楽というジャンルをも超越したア−トであるとさえ思う。
果たしてそうした音楽がこの世に一体どれほどあるのかと言えば、
そうはないような気がします。
・Rolling
Stone:The RS 500 Greatest Albums of All Time
・ジョン・コルトレ−ン公式サイト
★Today's Set
1. PartI: Acknowledgement(John Coltrane)
2. PartII: Resolution(〃)
3. PartIII: Pursuance/ PartIV: PSALM(〃)
4. Ascension(〃)
コメント 0