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『詠時感〜時へのロマン〜』エイジア 〜三角形の構図〜 [CDジャケット]

 

エイジア:1982年、元バグルス、イエスのジェフ・ダウンズ、元キング・クリムゾン、UK、ユーライア・ヒープのジョン・ウェットン、元イエスのスティーヴ・ハウ、元ELPのカール・パーマーというプログレ界の錚々たるメンツによって結成されたスーパーグループ。プログレの方法論をキャッチ−でポップなロックに昇華した。


■「A」のこだわり

『Asia』『Alpha』『Astra』…というように、
エイジアのオリジナル・スタジオアルバムのタイトルは
「A」で始まり「A」で終わるという暗黙のルールがあって、
8枚目の『Silent Nation』によって破られるまで続きます。

さすがにその縛りはきつくなったんでしょうか。
そもそも最初から無理があるんじゃないかとは思ってましたが、
彼らもまさかここまでバンドが続くと思ってなかったんでしょう…

ちなみに3枚目の『Astra』は当初『Arcadia』になる予定だったそうですが、
デュラン・デュランのメンバーによる同名のユニットが
同時期にデビューしてしまったために、急遽差し換えられたとのこと。

■三角形の構図

さてそんな「A」のこだわりは、アルバムジャケットにも見られます。
ロジャー・ディーンのイラストがカッコいい1stアルバム『Asia』のジャケットは、
ロゴが「A」をモチーフとした三角形になっていて、
さらに全体が「A」をモチーフとした三角形をなしているという見事な構図!

絵画において三角形は安定した構図であり、
ダ・ヴィンチラファエロも三角形の構図を好んだとされます。
ラファエロの「ベルヴェデーレの聖母」を例に出せば、
下図のように見事な正三角形をしているのが分かります。
『Asia』の場合も正三角形に近い二等辺三角形をしており、
非常に安定した構図と言えます。

特に西洋の宗教画において、三角形は三位一体を表し、
信仰を強固なものにする装置として、安定した三角形の構図が
機能したことは想像に難くないでしょう。
そういえば、ピラミッドや富士山に対して抱くある種の親しみの感情も
やはり三角形の安定感に起因しているのかもしれません。

このように三角形は、人々に心理的に受け入れられやすい、
つまりポップであると言えます。(ちょっと、強引ですが…)
ポップ、それはとりもなおさずエイジアの音楽性を表すものです。

実際アルバムはその年のNo.1となり、
全世界で1500万枚を売り上げるヒットを記録。(数字はWIkipediaより)
またそこからは「Heat Of The Moment」などのシングルヒットも生まれたりと、
文字通りポピュラリティを得ることに成功したわけです。

1982年ビルボード年間アルバムチャート

順位 タイトル アーチスト
1 詠時感〜時へのロマン〜 エイジア
2 ビューティー・アンド・ザ・ビート ザ・ゴーゴーズ
3 4 フォリナー
4 アメリカン・フール ジョン・クーガー
5 フリーズ・フレイム J・ガイルズ・バンド
6 エスケイプ ジャーニー
7 ゲット・ラッキー ラヴァーボーイ
8 麗しのベラ・ドンナ スティーヴィー・ニックス
9 炎のランナー ヴァンゲリス
10 ゴースト・イン・ザ・マシーン ポリス


■不安定な要素

一方、この絵を構成しているドラゴン、海、しぶき、暗雲は、
「安定」とは相容れない要素です。
それらがイメージするのは不安、緊張、ドラマ性といったもので、
特にドラゴンの鼻先の球体が、物語感を強調しています。

それはこれから何か凄いことが起こるという予感に満ちた、
まさにスーパーバンドの門出にふさわしいデザインと言えるでしょう。

それらはまた、彼らのルーツである、プログレを象徴するものでもあります。
例えば、変拍子や不協和音がイメージする不安感、
あるいはテクニカルなフレーズ、歪んだサウンドなどによる緊張感、
またドラマティックな曲調…といった具合に。

そもそもロジャー・ディーンの起用自体に、
プログレへの彼らの思いが込められているような気がします。

ロジャー・ディーンと言えば、プログレの代表的なバンド、
イエスのジャケットで有名ですが、
他にも、ユーライア・ヒープアトミック・ルースターなどを手掛けていて、
それらはどれも、エイジアのメンバーがかつて在籍していたバンドです。
そんなことからも、プログレという自らのルーツに対する誇りのようなものを感じます。

つまり不安定な要素を三角形という安定した構図で描いたこのデザインは
エイジアのルーツであるプログレ(=不安定)をポップ(=安定)に昇華した
彼らの音楽性のメタファであると言えるんじゃないでしょうか。

一部のプログレファンからは、裏切り行為のようにも思われたエイジアのポップ路線ですが、
あくまでプログレをルーツとしながらも、それを発展させたものであることが、
ジャケットからも分かります。

■三角形の衰退とポピュラリティの消失

三角形という観点でエイジアの各アルバムを見た場合、
最も顕著に三角形が見出せるのがこの『Asia』で、以降徐々に三角形は弱まっていきます。
皮肉にも彼らのキャリアの中で最も売れたアルバムが、この『Asia』であり、
以降バンドは徐々にポピュラリティを消失していくことになります。

2ndアルバム以降のデザインは以下の通り。

『Alpha』(1983)
ジャケット・デザイン: ロジャー・ディーン

底面が強調され、より安定度を増した。
サウンドもよりポップ(安定)に。

『Astra』(1985)
ジャケット・デザイン: ロジャー・ディーン

1stの雰囲気に近付くも、ややバランスに欠ける。
ここまでは三角形の構図がわりとはっきりしていた。
サウンドはよりハードに。

『Aqua』(1992年)
ジャケット・デザイン:ロドニー・マシューズ 

ここからバランスが崩れはじめる。
イルカに生えた羽が三角形を突き破る。
デザイナー交替。
ボーカルも交替でまるで別バンドのよう。

『Aria』(1994年)

ロゴのみに三角形が残るも、
バンド名とタイトルで作っていた三角形が
分断される。

『Arena』(1996年)
ジャケット・デザイン:ロドニー・マシューズ

アルバム名のフォントが大きく変わる。

『Aura』(2000年)
ジャケット・デザイン: ロジャー・ディーン

アルバム名のロゴやピラミッドは復活するも、
中央に配置されてきたタイトルは
左右に分断される。

『Silent Nation』(2004年)

イラストから実写に変わり、もはやロゴ以外に共通項はない。


先日オリジナルメンバーで来日しましたが、
今さらながら、ライブに行っておけばよかったと後悔しています。
高校の頃、最も好きなバンドだったんですよねえ。

しかし来年にはニュー・アルバムが出るかも知れないということで、
果たしてどんなサウンドになるのか?
どんなジャケットになるのか?
そもそもタイトルの「A」のこだわりは復活するのか?…
興味は尽きません。

 

★Today's Set
 1. Heat Of The Moment(Asia)
 2. Sole Survivor(〃)
 3. Time Again(〃)
 4. Wildest Dreams(〃)
 5. Here Comes The Feeling(〃)
 6. The Heat Goes On(〃)
 7. True Colors(〃)
 8. The Smile Has Left Your Eyes(〃)
 9. Eye To Eye(〃)
10. Open Your Eyes(〃)


タグ:エイジア
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ドラえもん好き

お久しぶりです。80年代洋楽好きには、なかなか面白い見解でした。こうしてアルバム・ジャケットを並べてみると、なるほど三角形
の構図ですね。まったく気がつきませんでした。ちなみに自分が高校時代、最も好きだったのはユーリズミックスです。ではまた。
by ドラえもん好き (2007-07-11 22:24) 

walrus

> ドラえもん好きさん
こんな感じで好き勝手に思ったことを書いてますが、
懲りずにまた遊びに来て下さい。
ユーリズミックスですか、懐かしいですね。
僕は最初に洋楽の洗礼を受けたのはカルチャークラブでした。
by walrus (2007-07-12 02:30) 

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