『セロニアス・ヒムセルフ』セロニアス・モンク ~酔拳の達人~ [音楽の聴き方]
『Thelonious Himself』Thelonious Monk(1957)
1. April In Paris
2. (I Don't Stand) A Ghost Of A Chance With You
3. Functional
4. I'm Getting Sentimental Over You
5. I Should Care
6. 'Round Midnight
7. All Alone
8. Monk's Mood
9. 'Round Midnight (In Progress)
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人波の中を、同じような顔で、同じようなペースで歩いていると、
時おりすれ違う酔っぱらいの無邪気な自由さが、妙にうらやましく映ることがある。
セロニアス・モンクの弾くピアノに心を奪われるのも、なんとなくそれと似ている。
文字通り耳にひっかかるような、つっかかってくるような、荒々しいタッチ。
滑らかさとは無縁の、ひとりよがりなタイム感。
音の遅れて出てくる感じは、もはやタメという範疇を超え、
その場で曲を作っているような手探り感をも思わせ、
聴いているこっちをハラハラさせる。
これってリハーサル音源だっけ?とライナーを見直したくなる。
まるで酔っぱらいが千鳥足で、あっちフラフラ、こっちフラフラ、
つまづきそうになりながら、進んでいくようだ。
周りにそんな人間がいれば、気になって仕方ないだろう。
気にしないようにしても、そんな歩き方をしていれば嫌でも目に留まるというもの。
モンクのピアノもまさにそういった感じで、気になって仕方ない。
だから眠るときや試験勉強のBGMには、およそ向かない。
しかし彼の音楽は、ただ酔っているのではない。
いや正確に言うなら、酔ってさえいない。
あたかも酔っているかのような、フリをしているだけ。
そう、まるでジャッキー・チェンの酔拳のように(例えが古いか…)。
その予測不能な動きに翻弄され、油断していると、スッと懐へ入られて、
ガシッと心臓を握られてしまう。
この千鳥足奏法は、バンドで合わせるときは苦労するだろうが、
でもこれはソロだからいいのだ。
何かに合わせなくてはならない義理はない。すべては自由なのだ。
だからこそ、この『Thelonious Himself』は美しい。
一応、ジャズということになっているが、
この型にとらわれない自由さ、深い情感は、
ソウルといってもいいし、ロックといってもいい。
いやそれこそ「モンク」という以外に、ふさわしい言葉はないのかも知れない。
マイルスの演奏で有名な、T-6「'Round Midnight」や、
T-2「(I Don't Stand) A Ghost Of A Chance With You」、
T-5「I Should Care」、T-7「All Alone」…など、ひたすら美しい曲が並ぶ。
T-8「Monk's Mood」のみ、ベースとサックスが入っている(案の定合ってない…)が、
ジョン・コルトレーンの温もりあるサックスがいい味。
結局最後には、聴いてるこっちが彼の音楽に酔ってしまう。
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