『氷の世界』井上陽水 [音楽の聴き方]
『氷の世界』井上陽水(1973年)
1. あかずの踏切り
2. はじまり
3. 帰れない二人
4. チエちゃん
5. 帰れない二人
6. 白い一日
7. 自己嫌悪
8. 心もよう
9. 待ちぼうけ
10. 桜三月散歩道
11. Fun
12. 小春おばさん
13. おやすみ
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当時はまだ珍しかった海外レコーディングに、
細野晴臣や、高中正義、林立夫、松岡直也…といった豪華サポート陣の起用、
忌野清志郎や小椋佳との共作、と話題性にも事欠かないが、
驚くのは、25歳の若者が、
こんな凄いアルバムを作ってしまったということ。
アタマから3曲(特に「帰れない二人」)と、タイトル曲「氷の世界」は、
いまの耳にも十分通用するポテンシャルを持った曲だ。
当時これらの曲が、どう捉えられていたか僕には分からないけど、
ある種の先取性というか、時代に魅入られたもの特有のオーラを感じる。
それは、何か確かな手応えを感じさせるような、確信に充ちたサウンドでもある。
■
1曲目と3曲目の間に、つなぎの曲を挿入し、
転調して3曲目へつなぐというアイディアが効いていて、
そうして始まるT-3「帰れない二人」は、よりドラマティックに、印象的に響く。
もちろん、曲そのものの完成度も高いのだけど。
この3曲を聴くだけでも価値があると思う。
しかし何といっても、タイトル曲「氷の世界」だ。
本人も自著「媚売る作家」の中で認めているように、
スティーヴィー・ワンダーの「迷信」をヒントに作られた、
ファンキーでクールな曲。シュールな歌詞が好きだ。
「氷の世界」井上陽水
そういえば、1stアルバム収録の「傘がない」も、
グランド・ファンク・レイルロードのパクリと言っていいものだったけれど、
たとえば歌詞カードに載っているギターのコードを見ても、
Bbm7-5とか、Dmaj7とか、Edimとか、D/Cとか…
フォークではあまり見られないようなコードが目立ったり…
こうした洋楽的センス、ポップセンスが、
他のフォーク・シンガーと陽水を明確に分けるポイントの一つで、
今日まで彼が生き残っている理由なんだろうという気がする。
とはいえアルバムの大半は、時代を感じさせるような曲だったりするんだけど、
ただ、それが悪いという訳では決してない。
「白い一日」や「心もよう」のような、典型的なマイナーフォーク調の曲も、
陽水の時代性を超越した、圧倒的な声で歌われると、じっくり聴けてしまう。
陽水の声は、今とほとんど変わらない(というのも凄い…)が、
今ほど嫌らしさもなく、純粋で野心的で、瑞々しさに溢れている。
このアルバムが日本初のミリオンセラーというのは、
何だかちょっと嬉しい気分だ。
ぷーちゃんさん、nice!ありがとうございます!
by walrus (2009-09-10 01:40)