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「世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド」村上春樹 [本の読み方]

>> "世界とは凝縮された可能性で作り上げられたコーヒー・テーブルなのだ。"

予定調和な結末の物語よりは、
不条理な結末の物語に惹かれることの方が多い。

「世界の終りとハードボイルドワンダーランド」もその一つ。
切ないラストは、読むたびに言いようのない哀しさが溢れてくる。

人間の行動は、ときとして理解を超えることがある。
他人から見れば、一見なんの利益にもならないようなことを平気で行ったり。
でもそれが人間というものだ。

そしてまた世の中というのは思い通りにいかないものである。
そんなことを教えてくれる小説だ。

>> "ジム・モリソンが死んで十年以上になるが、ドアーズの音楽を流しながら走っているタクシーにめぐりあったことは一度もない。"

二つのテイストの違う物語が交互に語られるのだが、
物語が進むにつれ、二つの世界はシンクロし始め、
やがてエンディングへ向けて感動的な収束を見せる。

とは言っても、二つの物語はそれぞれ独立していて、
最後まで、直接交わることはない。
しかし両者はまるで表と裏のような関係にあり、
裏があることで、表の部分がより深みを増すという構図。
逆もまたしかり。

物語もさることながら、こうした文学的構成の見事さに
感嘆せずにはいられない。

>> "気の利いた女の子というのは三百種類くらいの返事の仕方を知っているのだ。"

大学生のときに初めて読んだ村上作品が、
この「世界の終りとハードボイルドワンダーランド」で、
そんなに本を読む方ではない(おそらく平均的な部類だと思う)が、
それまで読んだどの小説とも違い、味わったことのない読後感を味わった。
その独特な文体と世界観は衝撃的で、
以後、僕の精神構造にかなり影響を与えたといっていい。

ポップで読みやすく、爽やかでありながら、
それでいてシュールなカフカ的世界観も併せ持つ。

また、偏執狂のように次々と繰り出される斬新な比喩表現。
それらを間引くと、きっと半分の量に収まってしまうんじゃないかと
思うほどだ。

他にも随所に実験的な表現がちりばめられていて、
この小説を多層的なものにしている。

>> "死とはシェーヴィング・クリームの缶を半分残していくことなのだ。"

腹が空いたら食事をするように、一定の時間が経つと脳が渇望する。
僕にとってそんな小説だ。


★Today's Set

1. A Hard Rain's A Gonna-Fall(Bob Dylan)
2. When The Music Is Over(The Doors)
3. The End(〃)


タグ:村上春樹
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ドラえもん好き

家にある「世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド」の文庫を久々に手に取ってみました。奥付を見ると「昭和六十三年十月二十日 二刷」の文字が。なんとこの本を初めて読んでから20年近く、経っているということが判明。ちょっとビックリ。女の子にプレゼントするために折りたたみ式の爪切りを探したことを思い出しました。
ところでボブ・ディランつながりですが、伊坂幸太郎の「アヒルと鴨のコインロッカー」は読みましたか?最近、映画化されたようですが、こちらもオススメです。
by ドラえもん好き (2007-06-01 00:02) 

walrus

> ドラえもん好きさん
折りたたみ式の爪切りは見つかりましたか?僕は地下鉄に乗っていると、たまに窓の外にやみくろの存在を探してしまいます。「アヒルと鴨のコインロッカー」ですか。知りませんでした。面白そうな話ですね。ぜひ読んでみたいと思います。
by walrus (2007-06-02 23:42) 

deacon_blue

☆ こんばんは。この小説,新潮社書き下ろし純文学(函入りハードカバー)で買ったのを思い出します。物語書きとしては,彼がいまだにあたしのフェイバレットです。
by deacon_blue (2007-06-03 19:46) 

walrus

> deacon_blueさん
nice!&コメントありがとうございます。(レスが遅くてすみません…)
僕のは文庫本ですが、赤線引きまくってボロくなってきたので、
そろそろハードカバーで買おうかと思ってます。
by walrus (2007-06-09 11:51) 

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