怪獣たちの集団セラピー ~『アセンション』ジョン・コルトレーン~ [音楽の聴き方]
『Ascension』John Coltrane(1965)
1. Ascension(Edition II)
2. Ascension(Edition I)
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■ジャズ未経験者には…
ジャズ未経験者に間違っても聴かせてはいけないのがコレだ。
初めて聞くジャズがこれでは、ジャズを嫌いになるばかりでなく、
三日三晩うなされること請け合いである。
せめて『至上の愛』あたりで免疫をつけておかないと、
ショック死する可能性だってある。
でも逆にこれがオーケーなら、何をすすめても大丈夫かも知れない。
いや、およそまともなジャズでは刺激が足りない、なんて言い出すかも。
つまり、それほどの劇薬だ。
フリージャズ、あるいは前衛ジャズとでもいうのか。
メロディやハーモニーといった概念は希薄である。
トランペット×2、サックス×5、ピアノ、ベース×2、ドラムという大所帯で、
それぞれがソロをとり、合間に全体での混沌とした演奏が挟まる。
だから1曲が長く、40分にもなる。
この長さもとっつきにくい原因のひとつだろう。
これを最後まで聴くのはかなりの体力がいる。
■怪獣たちの集団セラピー
そのフリーキーなサウンドは、
精神疾患にかかった怪獣が、集団セラピーを受けているようだ。
患者である怪獣の告白(ソロ)と、全員でのディスカッション。
「僕が小さい頃、父はウルトラマンにやられました」と誰かが身の上を語り始めると、
それに対し「それは可哀想に」とか「ウルトラマンのやつ許せん!」と皆が呼応する。
張り裂けるような管楽器の響きが、
深い哀しみや怒りの感情を表現しているかのようで、
それが臨界点を超え、さらに暴力的な嘆きとなる瞬間、
まるで剣山で胸をかきむしられるような、痛みを覚える。
特に、ファラオ・サンダース(テナー・サックス)のイキっぷりが凄い。
(「Ascension(Edition II)」の11分50秒あたりから)
そのラジカルな感情表現は、カート・コバーンやジミ・ヘンドリックス、
ジョン・レノンでさえも思わずたじろぎそうだ。
ちなみに「集団精神療法」をウィキペディアで引くと、
一般的に10~20人程度で、テーマを与えたりせずに自由に話をさせるとある。
時間も40分程度と、期せずしてこのアルバムと符号する点も。
ハードバップからついにここまでたどり着いたコルトレーンの境地は、
基礎的なデッサンから抽象画に辿り着いた、画家の境地に似ているかもしれない。
その変化が音楽シーンとどうリンクしていたのかはよく分からないが、
少なくとも彼の中では常に革新的であり続けたのは確かだ。
アセンションとは昇天とか、高次の存在へ変化するという意味合いらしいが、
それは彼の音楽そのものを表しているとも言えるだろう。
■これはロックだ!
果たしてこれはジャズか?そもそも音楽と呼べるか?
という議論もあるようだけど、
そんなのどうでもいいっていうか、好きか嫌いかでいいんじゃない?って思う。
僕はこれも音楽だと思うけど…。だって楽しいんだもの。
いやむしろロックですよ!これは。
マッコイ・タイナーのミステリアスなピアノや、
マグマのようなエルヴィン・ジョーンズのドラムなど、すべてが聴きどころだ。
このバイブレーションは凄いよ!
「Ascension」(John Coltrane)より、ファラオ・サンダースのソロ
★Today's Set
1. Ascension(Edition II)(John Coltrane)
2. Radio Friendly Unit Shifter(Nirvana)
3. The Star Spangled Banner(Jimi Hendrix)
4. Cold Turkey(Live)(John Lennon)
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