「アメリカン・ビュ-ティ-」(1999・米) [映画の観方]
<原題> American Beauty
<監督> サム・メンデス
<出演> ケヴィン・スペイシ-、アネット・ベニング、クリス・ク-パ-
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タイトルの陽気で華やかなイメ-ジとは裏腹に、
この映画の登場人物たちは、みなそれぞれに問題を抱えて生きている。
さえない中年男(ケヴィン・スペイシー)の自己再生物語を軸に、
家庭内不和、リストラ、銃、暴力、麻薬…といったアメリカ社会の暗部が、
まるでタペストリ-のように、巧みに織り込まれてゆく。
ただ監督のサム・メンデスと、脚本家のアラン・ボールは、
決して深刻なタッチでなく、あくまで軽妙に、ユーモアを交えながら、
スタイリッシュに描いてみせる。
また、クライマックスへ向けて、サスペンス的な仕掛けもあって、
ミステリーとしても楽しめる趣向だ。
この映画でオスカーを獲得した、ケヴィン・スペイシーがとにかくいい!
(僕の大好きな俳優の一人です)とくにラストは必見!!
またクラシックロック・ファンには、使われてる音楽もたまらないだろう。
■バラが象徴するもの
「アメリカン・ビュ-ティ-」というのが、バラの品種のことだと知ったのは、
映画を見に行って、しばらく経ってからのことだ。
(ポスターに写っている、深紅のバラがそれ)
映画の中でこのバラは、主人公の庭に植えられていたり、
妄想のシ-ンに登場するなど、象徴的な使われ方をする。
ひときわ印象的なのが、「バラの海に浮かぶ、ブロンドの美少女」のシ-ン。
非日常的で、妖艶な美しさに彩られたこのシーンは、
この映画の最大のハイライトのひとつだと思う。
このバラが象徴するものは、まさしく、
「アメリカ的な美しさ(アメリカン・ビューティー)」だろう。
ここで言う「アメリカ的な美しさ」とは、
華やかで力強く、
誰が見ても美しいと感じるような、絶対的な美しさ。
それはまた、アメリカ的価値観の象徴でもあるだろう。
例えば、この映画に出てくるような、郊外型住宅、自家用車、
ハンバーガー、バスケットボール、ブロンドの少女、ロックンロール…といった
いわゆるアメリカ的なものすべての象徴だ。
それは、経済と文化の中心であり、強大な軍事力に裏打ちされた、
世界のリ-ダ-である、強いアメリカ(という幻想)を背景とした価値観であり、
物質的豊かさを追求する価値観、と言い換えてもいい。
しかしこの映画は、そんなアメリカ的価値観が破綻したところから始まっていて、
登場人物たちの閉塞感も、そこに起因している。
娘や妻からつまはじきにされる主人公、上昇志向が強く、ライバルと不倫する妻、
男性経験を自慢する美少女、
ゲイであることを隠す元軍人など…
それぞれ虚勢をはって生きている姿が描かれる。
そんな行き詰まりを見せる、アメリカ的価値観に対し、
この映画は、別の価値観を呈示してみせる。
■「美」は見いだすもの
“...look closer(もっとよく見てみよう)”というのが、
この映画のキャッチコピーだ。
そしてメイキング映像の中で、アラン・ボールも言っているように、
“疲れきった日々の中で静かに人生を見つめ直し、「美」を見い出すべき”
というのが、この映画のメッセージである。
つまり「美」は見いだすものであり、
そのために「よく見る」必要があるというわけ。
「美」とは、もっと身近に溢れてるもので、
僕らはただ、それに気付いていないだけだと。
それを見いだすためには、見せかけの美や、既存の価値観にとらわれず、
物事をさまざまな角度から「よく見」て、その内面に迫ることが要求される。
それこそが、本質的な美の追求であり、幸福につながるというのだ。
それはもっと個人的で、観察する人個々の価値観を反映するものであるはずだ。
このような日常の美を、もっとも印象深く切り取ってみせたのが、
「捨てられたビニ-ル袋が風に舞う」シ-ンだ。
http://jp.youtube.com/watch?v=UDXjnW3nIWg
捨てられたビニ-ル袋は、本来「美」とは最もかけ離れたものだが、
足を止めて「よく見る」ことによって、まるで落ち葉と戯れるように、
優雅にダンスをするビニール袋の微笑ましい姿が見えてくる。
何気ない日常的な一コマを、ドラマティックなものへと変貌させてくれるこの場面は、
深く心に響くものがあると同時に、大切な何かに気づかせてもくれるだろう。
■アメリカ的価値観から脱アメリカ的価値観へ
「バラに浮かぶ美少女」と「風に舞うビニール袋」は、
まるで対照的な美しさを描いたものだ。
「絶対的な美」に対して、「相対的な(個人的な)美」、
あるいは「非日常的な美」に対して、「日常的な美」というように、
二つのシーンに象徴される、それぞれの価値観の対比は、
この映画に明確なコントラストを与えている。
前者を従来の「アメリカ的な美(価値観)」とするなら、
後者は「脱アメリカ的美(価値観)」とでもいうものであり、
この映画で描かれているのは、
いわば「アメリカ的美」から「脱アメリカ的美」への
パラダイムの転換であると言えるだろう。
■カメラの意味するもの
この転換において、触媒の役割を果たしているのが、
ビデオカメラであり、また鏡やガラスといった「何かを映し出す」ものだ。
それらは、「異なる視点」を暗示させ、
とくにビデオは、対象を「よく見る」行為の象徴として、
重要な役割を果たす。
「ビニール袋のシーン」は、青年のビデオカメラによる映像で、
普段なら見過ごしてしまいそうな光景を、青年の視点を通して気づかせてくれる。
このように物事を、異なる視点から、また積極的に見ることが、
「よく見る」ということであり、
それによって、それまで気づかなかった美しさを見いだすことが出来るのだ。
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この映画が公開されて、もう10年以上になるが、
そのメッセージは、いまだに古びてないようにみえる。
10年の間、それまでの価値観を大きく揺るがすような出来事が幾つも起こった。
同時多発テロ、イラク戦争、100年に一度と言われる金融危機、
そしていま、黒人初の大統領が誕生し、再び価値の変革が迫られている。
この映画のメッセージはむしろ、今という時代にこそ呼応するのかもしれない。
最後に、僕が買ったDVDには、コメンタリーがついているのだけど、
これが実に充実している。
本編に沿って、監督と脚本家がコメントをつけたものと、
スト-リ-ボ-ドと実際の映像を比較しながら
監督と撮影監督がコメントしているものの2種類があって、
構図やライティング、カメラワ-ク、美術など、
どのような意図で行われたかが、事細かに語られていて、とても興味深い。
★Today's Set
1. American Woman(The Guess Who)
2. All Along The Watchtower(Bob Dylan)
3. Use Me(Bill Withers)
4. The Seeker(The Who)
5. All Right Now(Free)
この作品「Thomas Newman」のサントラも
最高に良かったですね〜。
by ぷーちゃん (2009-08-23 14:25)
ぷーちゃんさん、
これは、音楽も楽しんで欲しい作品ですよね。
クラシック・ロックの使い方もいいし、
Thomas Newmanのオリジナルも印象深いですね。
by walrus (2009-08-24 04:22)